久々に過去生療法してみた:熊吉
今日は久しぶりに過去生を覗いてみたくなった。今の自分に関係する…といっても関係していない過去生なんかないと思うけど、影響の強いやつを見てみたいと思う。
早速意識をすましてみると…うん、見えてきた。おそらく江戸中期あたりかな。商人姿のおそらく20代半ばの若人が夜中の町を、血相を変えて走ってる…ずいぶん慌てている様子だ。何かから逃げているみたいだ。これが僕の過去生みたいだ。名前は…熊…熊吉?小さい頃は熊吉と呼ばれていた気がする。だが体格は小柄ですばしこそう。今の僕に似ている。
一体彼に何があったんだろう。彼の意識を覗いてみると…「お、オレは間違ったことはしちゃいねぇ!お前らにはわからねぇんだ!オレの方が正しいって、見てみりゃすぐ分かるのに!」
これだけじゃよく状況が分からないな。どうやら追っ手は5人ほどのやや荒くれた男どもだ。何人かは助っ人で来てるみたいだ。彼らにも聞いてみよう。
「あいつはな!あいつは俺らで貯めた金で勝手に商売始めやがったんだ!許せねえ!絶対許せねえ!しかも儲けは独り占めだ!引っ捕まえて締め上げてやる!」
なるほど、そういうことか。なあ熊や。なんで儲けを渡さねえんだい?もとはみんなの金だろう?
「この商売を考えたのは俺だ!俺の取り分が多いのは当たり前だろう!それにあいつらはがめつくて、いくらやってもまだ足りねぇってしつこく言ってきやがるんでぇ!それで結局…結局はこんな追われる事になっちまった!あいつらは何も分かっちゃいねぇ!俺は悪くねぇ!あいつらに天罰が下ればいいんだ!」
なかなか白熱してるねぇ…。借りた金は返したのかい?
「いや…実はまだ少し残ってるんでぇ…、それにしたってこれを考えついたのは俺なんだから、少しくらい感謝したらどうなんだい!」
まだ残ってるんならそりゃ怒るわな…追っ手にもまだ言い分があるみたいだ。
「残りは少しだって!?ふざけちゃいけねぇ。まだ一割しか返しやがらねぇ!どさくさ紛れであいつは踏み倒そうとしてやがるんだ!逃がしゃしねぇぞ!待ちやがれ!」
なるほど…これは今の俺の状況にも似てるなぁ。親への借金がまだ払えずにいるもんな…。親が待ってくれてるからいいものの、それに甘えてしまっている状況。熊吉もきっとそんな甘えがあるに違いない。
なあ熊や。今はいくらなら返せるんだい?
「い、今は全員に2割分が限界だよ…」
なんだよ、威勢がいい割にそんなに余裕あるわけじゃないじゃないか。ギリギリだったんだね。
「商売始めちまった手前、そんなみじめな事言えるわけねぇんだ。だからちょっとでも時間を稼ごうとして、支払いが先延ばしになっちまってるのが現状なんで…みっともねえのは分かってるんだけど…俺だってたくさん稼いでみんなに色つけて返してやりたいのはやまやまなんだ!そんで…みんなを喜ばしてやりたくて…オレ…ほんとはみんなの事好きなんだよ、馬鹿言い合って酒飲んで…だけどこんな事になっちまって、もう後戻りはできねえんだ!」
うん、気持ちは痛いほど分かるぞ。そう、みんなに喜んでもらいたいという気持ち、分かる。
じゃあ熊よぉ、おめえどうしたい?
「そうだなあ、手っ取り早く稼ぐには危ねえ仕事もありかも知らねえけど、やっぱりお天道様に顔向けできる生き方してぇよ。それにはやっぱり地道にコツコツと行くのがいいのかもしれねえなあ。それであいつらにも少しずつ返していけたらと思うよ…
そうだな、うん、分かった!こうなったらなんもかんも全部正直に言ってみんなに分かってもらうよ。時間かかってもまた信用してもらえるようにやるわ!」
そうだね、おれも地道に少しずつ行くのがいいのかもなあ。焦ってもカッコつけてもしょうがないから出来ることを一個ずつやるしかないよなあ。熊よ、教えてくれてありがとう。
せっかくだからその後の熊を見てみよう。ずいぶん真面目に働いて、仲間も少しずつ集まりだしてるみたいだ。お店はなかなか大きくならないけど、その真面目ぶりが買われて別の店に拾ってもらったみたいだ。どんな環境でも文句言わずに真面目にやってる。周りのみんなも見てないようでしっかり見てくれてる。
良かったね熊さん。自分に正直になることでささやかながら幸せを感じられるようになれて。